3つの会社で人事部門を渡り歩き、300名以上の若手育成、中堅の人材開発に携わってきました。今ではジョブ型雇用が日本に広まり、昭和・平成の時のように、現場経験が長い人がエスカレーター式に昇格していくことは少なくなりました。
年上部下を持つ、年下上司を持つことは、ごく一般的になり、ジョブ型雇用社会では「自分よりも専門知識が豊富な人材が部下として中途入社する」ということもあります。マネージャー職は専門職とは違いますので、求められるスキルがそもそも違うのですが、そういったキャリア採用の年上部下とどのように人間関係を構築し、そしてチームの成果を上げるのか、今回はそういった話を紹介します。
なぜ年上部下のマネジメントは難しいのか?
よく年上部下のマネジメントは難しいと言われますが、それはどのような場合にでも当てはまります。同性、異性、年齢差によりマネジメントの仕方は変えていくことが好ましく、その人のバックグラウンドやマインドのよっても、声のかけ方は変えていくと良いでしょう。
年上部下との接し方
日常のコミュニケーションのとり方
プロジェクト制を導入している企業には良くあります。プロジェクトを発足するタイミングで、リーダーとなる人材を選出し、その下で働くメンバーは各分野で専門知識を有する人材を集めることになります。
また、中途採用でキャリアがある程度ある方が入社してくることも考えられますが、過去に実績がある年上部下には、どのような接し方をすると良いでしょうか。
具体的な接し方
年上部下からすると、年下である上司の存在は面白くない場合があります。「私の方が専門家だ」というプライドもあるでしょうし、「屈辱的」と捉える人もいます。上司や部下という関係は偉さを表しているものではありませんので、年上の部下にも敬意を払って当然です。「上司だから」という発想は取っ払いましょう。管理職と部下の関係は、偉い偉くないの話ではなく、役割の違いでしかないのですから。
私は、年下、年上、キャリアに関係なく敬意を持って接することが重要だと考えます。ダイバーシティ&インクルージョンという言葉がありますが、その人の魅力というのは、キャリアや年齢、資格などでは測れません。もちろん特定分野の業務においては、経験が物を言うことはありますが、個人の特性を尊重し、受け入れていく時代です。
ある日、突然プロジェクト編成が変更になり、年上部下と立場が逆転というのもありますので、この人と一緒に働きたいと思ってもらえる行動を取ることが求められます。
- 敬意を持って接する
- 頼りにしていることを伝える
- 良いところを探して褒める
- 相談をして年上部下を立てる
- 命令口調ではなく依頼口調
典型的なトラブル事例
では、年上部下が問題行動を起こした場合は、どのように指導するのが良いマネジメントでしょうか。
指示に従わなかったり、上からの物言いをしてきたり、年下上司を小馬鹿にしてきたり、失敗を認めなかったりと、あなた自身も困ったことは多いのではないでようか。
トラブルが起きる原因
年上部下は、経験の長さから「素直さ」が欠如していくことが考えられます。過去の成功体験が「正しいやり方」だと信じやまず、新しいやり方を提案されても受け入れてくれないことがあります。
パナソニックの創始者である松下幸之助も「素直な心」が成功の要と言っていますが、人は素直さを失った時点で成長は止まると私自身の考えます。
敬意を持って接することは大切ですが、トラブルが起きた場合は「耳の痛いこと」を和らげて伝えるのは、上司と部下、またチーム形成、目標達成のためになるのでしょうか。
面談で関係性を構築
指示を聞き入れてくれない、というのは年下上司の仕事のやり方を認めていない証拠です。業務指示の前に、人としてのコミュニケーションを増やすべきでしょう。コミュニケーションを増やすには、上司と部下の定期的な面談 1on1 の実施が効果的です。
1on1はやっても意味がない、とも言われることがありますが、目的と手法を正しく理解することで望ましい効果が発揮されます。ここで言う「正しい理解」とは上司だけではなく部下自身も理解する必要があります。
- 関係性が構築できていない年下の上司の話は素直に聞きれてくれない
- 年上部下の経験とプライドは大切に受け止める
- 敬意は持って接するが「耳の痛い事」はでも伝えるべき時は伝える
1on1の正しいやり方
1on1は、部下と上司の信頼関係を構築するための仕組みのことです。面談などと堅苦しい呼び方をしては、部下は構えてしまい単なる業務報告の場として終わってしまうでしょう。まずは、楽しい気分になるネーミングをするのも良い方法です。
たとえば、「お茶会」や「おしゃべりタイム」のように業務とは離れて自由に話せる時間である雰囲気が伝わるネーミングにすると良いのではないでしょうか。
そして、実施する時に「何を話したいか部下に準備をしてもらうこと」を伝えましょう。1on1 は上司のための時間ではなく、部下の成長支援の場なので、上司からは極力「最近の調子はどう?」「あの案件の進捗は?」「それで、困っていることはあるの?」などと唐突に聞くことは控えてください。
部下自身が、仕事や疑問に思っていたり、躓いていたりすること、プライベートでの悩みなどを進んで話してくれるような時間にできれば 1on1 としての理想の形になっていると言えます。
とはいえ、急に上司に話を打ち明けるのを躊躇する人も多いでしょうから、そういった場合は上司が質問を用意しておきましょう。
積極的な自己開示
部下に自己開示をしてもらいたい時は、凡事徹底で上司から自己開示を進んで行うとよいでしょう。1on1の始めはアイスブレイクから入り、「あなたのどんな話も聞く姿勢があるのだ」という心理的安全性の場を作りましょう。
最近ではオンラインで実施することも増えてきているので、「今日は暑いですね」や「日が長くなってきましたね」であったり、子どもがいる家庭では「お子さんの流行りの遊びはありますか?」といった話を振るのも良いでしょう。
ただしオンラインで気をつけたいのが部屋の様子に関する話題や、髪型や服装といった容姿に関する話題です。特に異性であるとハラスメントだと思われてしまう可能性もありますので、プライベートに関する話題はある程度関係性が出来てからが好ましいです。
1on1で守るべきこと
マネージャーの立場である私は、こちらの内容を徹底して守っています。
- 開始時刻に遅れない
- 話を途中で遮らずに最後まで聞く
- 終わりには感謝の気持ちを述べる
管理職の方は忙しいので、セッティングしている予定時刻に間に合わないこともあるでしょう。ですが、絶対に守ります。部下との時間を大切にしていることを態度で示すためです。話を遮らないことは基本中の基本ですが、終わりには「今日もお時間をいただきありがとうございます。」と言うように心がけています。
年上部下の褒め方
では、年上部下と関係性を構築する場づくりが出来たあとは、どのように部下と接しれば良いでしょうか。それは、部下の存在を承認することです。経験とプライドを持つ年上部下を素直に認めましょう。そして、日頃の些細な行いを言葉にして褒めていくことで、悩みを打ち明けてくれるようになるでしょう。
男性の褒め方の実例
男女によって脳の違いがあるので、褒め言葉は使い分けが重要です(脳の違いについては別の記事にて紹介する予定です)。
裏方仕事を頑張っている部下 | 「誰も見ていなくても、決して手を抜かない方ですよね。」 |
ムードメーカー的存在の部下 | 「あなたがいないと、いまひとつ場が盛り上がらないんです。」 |
新しくプロジェクトに参加した部下 | 「尊敬できる先輩と一緒に仕事ができて光栄ですよ。」 |
人前での発表が得意な部下 | 「あなたのデータを駆使したプレゼン、天下一品でした。」 |
実績を残している部下 | 「わが部のお手本になっていただきたいと思っています。」 |
趣味の話題が豊富な部下 | 「車について語らせたら、あなたの右に出るものはいませんね。」 |
男性に対しては、少し大げさに褒めるくらいがちょうど良いです。これは、男性の脳が人前で褒められると、支配欲や自己顕示欲が満たされるためです。快感ホルモンのドーパミンが働きやすくなり、精神の高揚が起こります。
女性の褒め方の実例
会議資料の準備をしてくれた部下 | 「あなたのお陰でスムーズに会議が進みました。」 |
仕事を依頼したい時 | 「忙しいのは承知ですが、あなたに頼みたい仕事なんです。」 |
雑務をやってくれている部下 | 「細やかな気遣いに、私もみんなも感謝しています。」 |
ミスなく仕事をこなす部下 | 「この業務はあなたに任せておけば安心ですね。」 |
普段から元気のよい部下 | 「あなたの明るさに、とても元気づけられていますよ。」 |
団体をまとめる役を買ってくれる部下 | 「あなたはこのグループになくてはならない存在ですね。」 |
女性に対しては、「あなたを大事にしている」「あなたがかけがえのない存在」という言葉やニュアンスで、伝わる言葉で言うことが大切です。あなたが男性の上司であると、照れくさかったり、面倒くさかったりするかもしれませんが、男女間では言葉にしないと伝わりません。女性には共感を示す言葉で褒めましょう。
「くん付け」の呼び方はありか?
社会において、「くん付け」は年上、年下関係なく控えるべきだと私は考えますが、大切なのは相手がどう感じるかです。人間関係が築けているのであれば、どのような呼び方も受け入れてくれるでしょうし、年上部下には「兄さん!」や「チョウさん!」などのように、頼りになる兄貴を呼びかけるような呼び方を喜ぶ人も多いです。
もし、上司であるあなたが年上部下を「くん付け」で呼びたいのであれば、その理由はなんでしょうか?
自分の立場が上であることを態度で示したいのでしょうか。そうであった場合、あなたは部下より自分の方が仕事の能力が低いと深層心理で思っているのかと思います。
その会社の風土的に、「くん付け」で呼ぶ風習があったのでしょうか。そうであった場合、あなた自身は「くん付け」で呼ばれてどのように感じましたか。
まとめ
年上部下に対する接し方について紹介しましたが、年齢、性別に関わらず、相手を尊重してこそ信頼関係が生まれますので、少しずつマネージャーの立場の方から歩み寄ることが求められますので、まずは「相手の良いところを見つけて褒める習慣」を身につけてみてはいかがでしょうか。
